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2.書籍関連

君の祖父母が直面した「階級社会」の壁

敗者復活の「学問のすすめ」』の原稿の一部をここでシェアさせていただきます。

古市が、どうして自己啓発や能力開発関連の教材を作り、セミナーをしているのかがおわかりいただけると思います。約10年後、20歳前後になった娘に対して語りかけています。

ここで、パパが小さかったときのことや君の祖父母の話をしておこう。

パパのほうの祖父母は、第二次世界大戦中に生まれた。戦争の記憶はないようだけど、二人に共通するのは、子どもの頃は、とにかく貧しかったということ。

昭和20年に日本が戦争に負けてからは、日本全体が貧しかったと言っていい。地方の田舎ならなおさらだ。当時は5人兄弟姉妹などが当たり前だったからもっと貧しい。

君の家の場合、パパとママと君の3人分のご飯を用意すればいいけれど、お祖母ちゃんのところは6人兄弟だったので、合計8人分のご飯を用意しなければならなかった。

君の祖母の弟、パパのおじさんの話を聞くと、当時パパのお祖母ちゃん(君の曾祖母)が作る、納豆に大根おろしを入れた料理が好物だったらしい。

だけど、これは、家族全員分の納豆がなかったので、大根おろしで量を増やして家族全員に行き渡らせるという曾祖母の苦肉の策だったそうだ。

彼らがどんなに貧しい生活をしていたかは、映画『フラガール』を観てもらえばだいたいわかる。主人公の兄のように、君の曾祖父は炭鉱で働いていた。

子どもは多いし貧しいので、子ども全員に満足な教育を受けさせられない。当時、田舎では、子どもは義務教育の中学校を卒業したら、すぐに家を出て就職するのが普通だった。

別の言い方をすると、世の中のルールをきちんと教えられることもなく、中学を卒業するなり15歳で社会に放り出されたわけだ。

ママのほうの祖父母も同じだ。当時はこのような地方出身の中学卒業生を、「金の卵」ともてはやしていたけれど、ホンネでは「中卒だから安い給料で働いてもらえる。だから会社が儲かる」という「安い労働力」の意味だった。

君の祖父母が働き始めたのは、高度経済成長期と言って日本がとても景気がよかった時代だ。東京タワーが建つ、高速道路ができる、新幹線が開通する、東京オリンピックや大阪万博が開催される……。

こんな時代でも中卒や高卒の社会人の月給は安かったと思うけど、日本全体が景気がよかったから、毎年のようにお給料が上がっていった。少なくとも、田舎にいたときほどの貧しい生活ではなかったはずだ。

仕事が忙しかったこともあるだろう、経済的に余裕がなかったこともあるだろう。君の祖父母と同じくらいの年齢の中卒、高卒の社会人の多くは、学校を卒業してから勉強することはほとんどなかったと思う。景気がよかったのでそんなことをする必要性も感じなかっただろう。

そして、この人たちが25歳くらいで結婚をして生まれたのがパパやママの世代だ。世の中のルールを教わることなく15歳(高卒なら18歳で)で社会に放り出されても、10年も社会経験を積めば世の中の現実が見えてくる。

祖父母が痛いほどわかったのは、「世の中は学歴社会」ということだった。中卒だから自分の希望する仕事に就けない、お給料が安い。高卒だから同じ会社でも大卒の社員にこき使われる。

親心としては、「子どもにだけは、自分たちが苦しんできたような学歴で差別されたり、苦労をさせるようなことはさせたくない」と思うのも当然だと思う。

祖父母の夢は、子どもを大学に入れることだった。祖父母の両方の家系で、それまで大学に行った人はいなくて、大学に行かせてもらえたのはパパがはじめてだった。

アメリカでは”glass ceiling”(ガラスの天井)という言葉がある。天井があってこれ以上は上れないが、透明なのでなぜ自分の頭がつかえているのかわからないという意味だ。

「差別をしない」と言ってはいるが、じつは人種や性別を理由に、同じような学歴や能力があっても会社の中で一定以上のポジションに昇進できないことを指す。

祖父母とってのガラスの天井は「学歴」だった。

「お祖父ちゃんの悩みは、人間関係とお金だった」に続く。

2016.12.03

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